2020年のコロナ禍の中で始動した「R&Bシンガー・aimi」が、4作目のEPとなる『Empower.Embrace』を2025年2月5日にリリースした。前作『Chosen One』から数えると（個人名義のEPとしては）実に3年ぶり。EMI MARIA、JASMINE、tofubeatsらとのコラボレーションを行い、R&Bイベント〈STAY READY〉を自身で主宰・開催したり、また声帯の手術によって休養を余儀なくされたりといった経験を経て、ついに放たれたこの新作は、aimiというアーティストの輪郭とビジョンをこれ以上なく明確に打ち出したものとなった。 思えば2023年夏にインタビューした際、「チャプター０に戻った感覚がある」と話していたaimi。『Empower.Embrace』は彼女のカタログとしては4th EPにあたるが、これこそがaimiの“第一章”であるという自負がみなぎっているように感じられてならない。いわば、グラミー賞にもノミネートされたフィラデルフィア出身のあの女性歌手／詩人のデビュー作が反語的に投げかけたように、『Who is aimi?』――「aimiとはどんなアーティストなのか？」をこれ以上なく雄弁に語るような“ボリューム1”といった印象を受けた。 ではaimiとはどんなR&Bシンガーなのか。 リードシングルとなったM1「The Bdst.」と昨年10月に発表していたM4「Sippin’ Sake」では、女性の強さと自立を歌う。Y2Kオマージュに溢れた後者は、わかりやすく往年のデスティニーズ・チャイルドあたりの世界観でニヤリとさせられるが、「私は最高」と高らかに宣言する前者も、aimiが愛してやまないR&Bディーヴァたちのアティテュードが込められている。両曲とも、盟友Modesty Beatsだけでなく、Yui Muginoがコライトに加わっており、とくに世界を股にかけて活躍するMuginoによる緻密なボーカルディレクションによって、これまでになく“aimiが打ち出したいR&B”の方向性が明確化され、新たな表情を見せるaimiの歌声が楽曲のメッセージに説得力をもたらしている。 ここ数年のトレンドとなっているアフロビーツを取り入れたM2「Wish You Better」では、アッシャーやマニー・ロング、サマー・ウォーカーらの楽曲でもアシスタントを務めてきた米アトランタの女性エンジニア、JESSがミックスを担当。このJESSとの交流がきっかけで同地のソングライターであるDERAが制作に加わっており、アフロビーツ発祥の地とされるナイジェリアにルーツを持つ彼の協力でよりオーセンティックなものに。別れた相手の幸せを願う歌詞が、爽やかなビートと切ないメロディの対比で際立つ“エモ”アフロビーツだ。 コラボといえば、昨年4月に発表されたM6「I’m OK」では、彼女が傾倒するジェネイ・アイコのプロデュースで知られるLEJKEYSとの共同制作が実現。ジェネイの現状の最新作である2020年の『Chilombo』では共同エグゼクティヴ・プロデューサーも務めたベトナム系アメリカ人のLEJKEYSがプロデュースを担当したこの曲は、90s後半の香りも漂う柔らかい雰囲気の中で、不完全な自分を抱きしめ、受け入れることを歌う。 「The Bdst.」が本作において「Empower（＝力を与える、自信を持たせる）」パートの筆頭であるとするならば、「I’m OK」は「Embrace（＝受け入れる、抱きしめる）」パートを代表する楽曲と言えるだろう。そして内省的な「Embrace」パートにおいても新境地と言えそうなのが、M3「Black Coffee」だ。自身の音楽人生を苦手なブラックコーヒーになぞらえたビターなこの曲は、aimi史上もっとも日本語率の高い歌詞ということもあって、今までになくJ-R&B色を感じさせる。トラップビートと組み合わさった現行R&B路線でありながら、どこか懐かしさや親しみやすさも感じられる仕上がりなのは、日本語詞であることもさることながら、2000年代から活躍するNAOtheLAIZAの手によるミックスも“和製R&B”という印象を形作る一助となったのかもしれない。 〈STAY READY Vol.2〉に合わせて発表されたファンへのラブレターM.5「(wanna vibe) with you」から始まるポジティブな空気は、ディスコ・ハウスなM.7「Love Like That」で最高潮に。4つ打ちのダンス路線というのも（リミックスを除けば）初だが、これもビヨンセの2022年作『Renaissance』を筆頭に近年のハウス～ディスコ回帰のムードに呼応したものだろう。 昨年のグラミー賞で新人賞や最優秀R&B賞に輝いたヴィクトリア・モネイへの愛も感じられるM1「The Bdst.」に始まり、アフロビーツやY2K R&Bなどのトレンドへの目配せもあるなど、現行R&Bシーンの語彙と文法をしっかりと持ちながらも、日本語詞も増量させ、“日本人R&Bシンガー”としてのポジションを明確にさせたaimi。EPのリリースを地道に積み上げたうえで、ファーストアルバム『Jaguar II』でR&B界の新星スターとしての地位を確立したモネイのように、『Empower.Embrace』を聴くと“aimi初のフル・アルバム”が（いささか気が早いが）待ち遠しくなる。プロローグは終わり、第1章へ。R&Bシンガー・aimiの物語が本当に幕を開くのは、ここからだ。 執筆：末﨑裕之 (February, 2025)